2006/12/26

DVD市場に打撃、米国で「ネット映画」本格化

米国で映画のインターネット配信サービスが本格化してきた。ネットが新たな収益源になると見た米ハリウッドの映画各社が、有力作品を手ごろな価格で提供し始めた。このまま普及が進めば、DVD市場の成長は一段と鈍化し、日本の家電メーカーの次世代DVD戦略にも影響が及ぶ可能性もある。(ニューヨーク 小山守生)

成長に自信
 「消費者がネット配信を求めていることが明白になった」。米娯楽・メディア大手ウォルト・ディズニーのボブ・アイガー最高経営責任者(CEO)は11月9日に開いた7?9月期の業績説明会で、映画のネット配信事業の成長に自信を見せた。

 ディズニーが9月から米パソコン大手アップルコンピュータの世界最大の音楽・映像配信サイト「iチューンズ・ストア」を通じて始めた映画ネット配信は、2か月でダウンロード件数が50万本に達した。映画ネット配信の価格は購入する場合で1本10?15ドル程度とDVDより割安だ。ディズニーはiチューンズ以外のサービスでも配信してゆくという。

 アップル・ディズニー連合に対抗して、映画大手ワーナー・ブラザースやパラマウント・ピクチャーズも11月下旬、米マイクロソフトと共同で、家庭用ゲーム機「Xbox(エックスボックス)360」向けにネット配信を始めた。ダウンロードしてから2週間だけ視聴できる「レンタル方式」の価格は1本3?4ドル程度。パソコンを介さずにゲーム機とテレビがあれば視聴できるのが特徴だ。

 米ネット小売り大手アマゾン・ドット・コムや米ネット接続最大手AOLといった大手ネット企業も参入し、競争が激化している。

■新たな収入源に
 米国には以前から映画のネット配信サービスがあったが、1970年代以前の旧作や独立系映画会社の低予算作品が中心で、人気がなかった。ところが、最近はハリウッドの映画大手が新作を積極的に提供するようになり、「スーパーマン リターンズ」「ダ・ヴィンチ・コード」といった大型作品がDVD発売とほぼ同時にネットに登場した。

 映画業界が姿勢を転換したのは、ネット配信を新たな収益源に育てることにしたからだ。劇場興行収入が伸び悩むなか、新作を無断でネット配信する違法ウェブサイトが増え、全米映画協会(MPAA)によると映画大手の昨年の被害額は23億ドル(約2700億円)にのぼった。一方で、かつて違法ネット配信の普及とCD販売の低迷に苦しんでいた音楽業界は、合法的な音楽ネット配信からの収入増で業績が回復してきた。

 このため、映画業界でも「需要がある限り作品提供手段を多様化してゆくべきだ」(ワーナーのビデオ部門のケビン・ツジハラ社長)との考えが強まった。「ネット配信はDVDと違って製造コストがかからないので、映画会社にとっても都合がいい」と、米調査会社アダムス・メディア・リサーチのトム・アダムス社長は指摘する。


DVDソフト販売にも影響か
 映画ネット配信の普及はDVD市場に打撃となりかねない。米大手会計事務所プライスウォーターハウスクーパース(PwC)によると、米国のDVDソフト販売市場は2004年まで2けた成長が続いていたが、06年は前年比5・7%増にとどまる見通しだ。今後はネット配信が普及することで「再び2けた成長に戻ることはない」(PwC)と予測されている。

 DVD小売店やレンタル業界は警戒を強め、米小売り2位のターゲットは、ネット配信を開始したディズニーに「DVDの卸売価格をネット配信並みに引き下げなければ、店内の陳列スペースの縮小を考える」と警告した。

 日本の家電メーカーが得意なDVDプレーヤーなど関連機器販売への影響も注目される。すでに米国のDVDプレーヤーの世帯普及率は8割超に達し、販売の減少傾向が顕著だ。

 家電業界には、高精細なハイビジョン映像を特徴とする次世代DVDがネットに対抗できると期待する声が強い。しかし、マイクロソフトなどは一部作品をハイビジョン映像でもネット配信し始めており、次世代DVDをも脅かす存在になる可能性がある。

読売新聞 - 2006/12/25

posted by masahiro @ 7:20 午前

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