2007/01/08

老いは生のさなかにあり

「老いは生のさなかにあり」

 ◇津本陽/著
 ◇幻冬舎
 ◇1,600円(本体価格)


           【 老 境 力 】
                      


紀州・太地村を舞台に、鯨を追う勇敢な漁師達の愛と生死をリアリ ティ豊かに描いた第79回直木賞受賞作品「深重の海」が有名ですが実際に起こった日本史上最大の知能犯罪を鋭く総理大臣を歴任した高橋是清の生涯を綴った「生を踏んで恐れず―高橋是清の生涯―」など史実や人物を取り上げ、手堅く綿密に描ききるその描写力も氏の作品の魅力であると思います。
武道に精通した氏らしく柳生石舟斎や行は非常に力のこもった描写となっており、特に章では体力が壮年から七十歳ぐらいまでほとんど衰えなかったことを鍛錬法や体験を交えて解説し、人となり、薩摩隼人としての気質を彼の末裔である東郷重政氏や交流を通じ語っています。
松下幸之助の章では、葬儀に遺族へ弔電「全世界の人々にインスピレーション(霊感)を与える人」という表記から始まり、丁稚奉公時代の話を描き、そして松下幸之助の「もし雨がふっても、自分は絶対傘をささないんだと、意地を張って歩き出せば、たちまちずぶ濡れに
なってしまう。所詮は自然の理にかなわない。かなわなければ従うほかないで
すな。…(中略)…雨の中をかさもささずに歩くような考え方をしたり、不自
然な行動をとったりする。そこから、いろいろなまちがいがおこってくるんで
すな」という言葉を通して見る彼の人生哲学を語っています。
松下幸之助の長女幸子や夫松下正治さんの話を交え、推測や憶測の上にたつ虚像としての松下幸之助では実際に存在した松下幸之助として生々しく描いているところも読み手として人物を身近に感じることができるでしょう。

posted by masahiro @ 4:34 午後

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