2006/11/14

ネット株取引、「脳みそに汗して」こそ真の投資家になれる

 朝、旦那を会社に送り出すと早速パソコンの電源を入れてネットで株を始める主婦、実はその旦那も仕事中にチラチラと携帯で自分の株の動きをチェックする??。いざなぎ景気よりも長いと言われながら、タクシーや町の商店ではいまだに実感がないという今回の景気。この景気に大いに寄与したのはこの普通の人々によるネット株取引ではないでしょうか。 人々はなぜ急にネット株取引を始めたのでしょうか。まず理由として挙げたいのはネット株取引の「気楽さ」でしょう。わずかな手数料で誰にも頼まなくてもワンクリックでできてしまう気楽さです。もしそのワンクリックの結果、儲けが出ればこれは快感そのものです。景気が良くなっている過程においては、業績好調な銘柄も多く、株価も自然に上がる傾向となります。 この過程においては、初心者が麻雀やパチンコで勝ったようなゲームの快感を覚えるに違いありません。日ごろは子供のテレビゲームを非難するような大人も、この時はゲームという自覚なしに熱中しているはずです。 「上がるから買う、買うから上がる」という理屈は市場の基本原理です。その市場に入る人が増えない限り基本原理も働かないのです。ネット株取引がこの基本原理のボトルネックを一気に外した結果、株式市場への参加者数を爆発させました。 2番目の理由としては、金利政策です。これだけ長期間にわたってゼロ金利を維持する国は珍しいと言われるほど日本は超低金利政策を続けてきました。期待していた預金の利子がない時は人間はそれよりマシなものを探すものです。新聞やテレビが株価の上昇を伝えれば、どこかで「やらないと損」だと考えるのが人間です。東京証券取引所の「東証アローズ」マーケットセンター ワンクリックで即時に儲けを出した快感を持ちながら、ちっとも増えない銀行の利子を見ると、このワンクリックはもう快感を通り越して義務感と焦燥感さえ帯びてくるでしょう。 しかし、この「気楽さ」と「上昇相場」と「低金利」によって作られた「投資家」の多くは投資の基本をまだ知らないままです。下げ相場になればその「気楽さ」が一気に反対方向に働き始め、人々の心と財布の傷口を広げることになります。下げ相場になってから多くの人々は初めてゼロ金利より株取引の損がずっと大きいことに気付くのです。 「額に汗する」ことの重要性を教えられてきた人々は「脳みそに汗をかく」ことに慣れていません。突如起こった下げ相場に翻弄され狼狽売りに走った結果、売りが売りを呼び、新興市場が一気に崩れたのはもうこの半年で証明された事実です。 新興市場を見切ったネット株取引の多くは大企業に向かいましたが、その大企業もいつまでも上昇することはあり得ません。ネット株取引に参加する絶対人数がいつまでも増えることはなさそうです。実際に各種調査データが、ネット株取引の伸び悩み傾向を示しています。 これは決して悪いことではありません。損することを経験しない限り、下落相場を経験しない限り、ネット株取引をしても真の投資家にはなれません。我々の経済社会が求めているのは投資であり、賭博ではないはずです。 一方、世間では短期売買のネット株取引そのものを「投機」と呼ぶ人がいますが、それは間違いだと思います。買った株を1秒持つか1万年持つかは単なる投資利益の取り方が違うだけであって、それ以上でもそれ以下でもないのです。 投資には「恩を売る」「奉仕する」などの考えは存在しないのです。投資の社会的意味は「ルールを守って投資する」にのみ存在するのです。投資家にそれ以上を期待するならば、言葉を投資から「寄付」に変えるべきです。米の大投資家バフェット氏がしたように。 短期売買でもよし、長期保有でもよし。余裕のある範囲内と自己責任で投資を行い、損得に冷静に対処する。このような健全な投資感覚を持つ投資家の増加には時間がかかり、相場の変遷も必要です。何しろ、老若男女すべて入れても人口は1億3000万人しかいないのですから、取引参加者が永遠に増え続けることを前提にするビジネスモデルなど成り立たないでしょう。
日本経済新聞 - 2006年10月29日
posted by masahiro @ 1:23 午後

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